なぜ(公式の)着用写真を提示しないかについて



先日、展開先の店舗にてアルビジアのリングの着用写真が無許可で公開されたということがありまして、その件についてはお店とお話は済んで画像も削除済み、丁寧に謝罪いただいたのでもう問題はないのですが『なぜわたしが着用写真を提示したくないか』について説明したのですがあまり理解していただけなかったなという気持ちが残ったので、誰に向けてということはないですがちょっと書いておくことにしました。


かつて一回だけ頼まれて着用写真トライしたことはあります。ラピスラズリとルチルクォーツのダブレットストーンのリングでした。それは世界に一枚だけ(もう埋もれてしまっていますがインスタには残っているかもしれない)あります。ずいぶん前です。自分の手に着けて撮りました。しかしその後考え直して、たぶん今後どんなに頼まれてもしないと今は決めています。もし今後わたしが着用写真を公開するようなことがあったらあのデザイナーは魂を失ったんだなと思って欲しいし、もしくは無許可ですのでどこかで見かけたら教えてください。魂を失っていたらもう買う価値はないので見捨ててくださっていいです。


着用写真、出しているブランドさんはたくさんありますしサイズ感はわかるしなんで出さないの? とよく聞かれます。わかる。サイズ感がわかると通販もしやすいかなと思うし、イメージも湧きやすい。もしかしたらお店まで見に行こうかなと思うかもしれない。でも出したくないんです。通販で、抽選販売でリングを売る時も着用写真は出していません。寸法を記入した画像を公開してお手数ですが紙をその大きさに切って指の上に乗せてみてね、というスーパーしち面倒臭いことをお願いしているくらい出したくない(皆様よくお付き合いくださっているなと感激するほどです)。絶対に嫌なんです。


なぜか。


これはデザイナーの個人的な体験なので恐縮ですが、だからなんだって話かもしれないんですがわたし、みっともない女なんですよね。みっともないっていうのはもうさすがにいい年なので自分じゃ思うのはやめましたしみっともなくない最低ラインをどうにかごまかすスキルくらい身につけてきましたが、このわりと長くなってしまった42年の人生でくりかえしくりかえし延々刷り込まれた『わたしはみっともない』を抱えて生きている、ということです。


くりかえしくりかえし、『わたしは美しくない』というメッセージを、ルッキズムに支配された『美しいことは価値がある』というメッセージの裏に読み取って生きてきました。


そろそろ気にしないで生きていいんじゃないかなあって思うけどでもまだ時々忘れた頃にひょいと顔を出すあれです。わたしは身長は170センチあるし華奢じゃないし骨密度すごく高いし骨格もがっしりしているし腕はむやみに長いし頭蓋骨も大きいしにこにこできないし楽しいと大きい声でげらげら笑うし手もバスケットボール片手で掴める級の手をしているし産後のダイエットも全然うまくいきませんでした。店頭に立っている時に「あなたみたいな大きな女にこんな美しいものをデザインして欲しくない」と言われたこともあります。まあお世辞にも『美しい女』ではない。


だから、試着室が嫌いだったんですよ。


ほんとうに嫌いでした。いい歳になった今でも嫌いです。これかわいいですねって言って洋服を持って試着室に行って、いちばん大きいサイズ出してもらっても上までチャックが上がらなかった時とか、ほんとうに世界でいちばん惨めな気持ちになる。雑誌の写真見て素敵だなって思ってお店に行って、試着してみたら思っていたシルエットと全然違った時とか、ほんとうにうんざりするし自分は全然ダメだなって思って絶望します。一回だけならいいけどそれ何回か続くともう買い物行こうとか思わなくなりますよね。買い物なんのためにしているのかわからなくなるし、謝る必要なんてないのに店員さんに謝ってしまうし、そういう時に「サイズがご用意できなくてこちらの貧弱な商品展開こそすみません」て言ってくれる店員さんはまずいません。


だから以前は、あっちが出してくるデザインに適合できない自分が悪いんだと思っていました。わたしが細くないから美しくなく世間様の標準とするモデルからかけはなれているからだめなんだなって。別にそれを誰に言ったりもしませんけど、嘆きもしませんでしたけど、わざわざヨーロッパまで行って洋服を買っていましたけど、たしかに傷はついていたと思います。生きてきた間ずっと、くりかえしくりかえし。


広告を作る時、それが魅力的に見えるようにそれはもう多大な努力が払われます。ほんのすこし写るものですら感じよく、購買意欲が刺激されるように計算されます。これを手に入れたらきっと素敵なわたしになれる、というメッセージを込めてそれは作られます。もちろん。それが広告ですから。だから着用写真を撮る時、きっとその写真を用意しようとする人はいわゆる『美しい手』を選ぶでしょう。指輪が最大限魅力的に見えるよう、そのテイストに合わせた感じのいい、魅力的な、こうなりたいなって思うような美しい手を選びます。当たり前です。だから雑誌も広告も美しい手が美しいジュエリーを着けている。


でも自分がジュエリーを作るようになって思ったんです。「ほんとにそれいる?」って。世の中にはいろんな人がいていろんな体があっていろんな手があっていろんな指があっていろんな人生があっていろんな人がジュエリーを着けたいって思っているのに、ほんとうに手だけ見ても千差万別なのに、ほんとにいる? って。


もういっかい言いますね。ねえ、ほんとにそれいる? 感じたことがないという方もたぶんいらっしゃるでしょう。でもわかってくださる方はきっとわかってくださると思う。ほとんど怒りに近い感情でわたしは思っているのです。店頭でそんな必要ないのに恥ずかしい気持ちになったあれを、あのささやかな絶望を、あのどうしようもない惨めさを爆破したいんです。せめてわたしが作る、この小さな小さな店先では。


あれはわたしが悪かったのか? と今あらためてわたしは尋ねます。違うんですよ、わたしもあなたも一ミリも悪くないです。あなたに/わたしに合うものを用意できなかったデザインが悪い。見た目の美しさだけを提案する広告が悪い。なぜ来てくださったお客様を惨めな気持ちで帰らせなきゃいけないのか。


だからせめてわたしがつくる物は、わたしが用意するお店ではあれをほんのひとかけらも感じないで欲しいと思っています。そしてもし気が合う石に運が良く出会ったら、わたし世界で一番これが似合う! ってにこにこ帰れる買い物をしてほしい。他に似合うかもしれない誰かのことなんかどうでもいい。どうでもいいんですよ。細くて美しくてにこにこして誰のいうことも聞いてくれそうな誰かの手なんて一瞬たりとも思い出したりしなくていいです。


わたしはたぶんけっこう怒っているんです。もちろんそうじゃないクリエーターさんがいらっしゃるのも知っているし、そうだからわたしもどうにか生き延びてここにたどり着いたわけですが、ファッションもビューティーもジュエリーも《こうやって美しくあることが幸福である》をいまだ垂れ流し続けている。見合わない誰かを蹴落として、それに見合う買い手を選別するような広告で、小さく小さく誰かを傷つけ続けている。完璧な女なんて/完璧な男なんてどこを探してもいないのに。


ありとあらゆるところの広告が表現がデザインが《美しい女性》を強要してくるのがわたしはほんとうに嫌です。そして毎日鏡見てうんざりして試着室で落ち込んで生きてるだけで自信がなくなる世の中であることが嫌です。これからを生きる誰かに(女の子たちに、男の子たちに、もしくはそのどちらでもない誰かに)そんな気持ちで生きてほしくないと心から思っています。


それはこれからの誰かについてもそうだし、それに耐えてがんばって生き延びてきた女かもしれない男かもしれないどちらでもないかもしれない誰かに、わたしは言いたいんです。これ以上頑張って美しく(もしくは強く雄々しく)ならなくていいんだって。あなたはあなたのままで最高なんだから、そのままで笑ってって。不機嫌な日も泣きたい夜も腹立って仕方ない日も全然うまく笑えない日もあるけど、それでいいじゃないですかって。わたしはそのどんな時でも寄り添ってくれるような、そんなものが作れたらいいなと思っています。


「こんな美しいものはわたしには似合わないのでは」って言う誰かを店頭で見るたびに、わたしはほんとうに自分の無力さに腹を立てて夜中ひとりで泣くのです。説明が足りなくてごめんなさい。メッセージがまだ弱かった。そんなこと言わなくていいんですよ。好きなものを選んで好きなものを身に着けてそして笑いたい時に心から笑ってほしいからやっています。少なくともわたしは、わたしだけは、どこかの美しい選ばれた女のためじゃなく(もしくは雄々しく強い象徴みたいな男のためじゃなく)、ただあなたのためにこれを作っています。信じていいです。信じて欲しい。わたしは《あなたに》幸せになってほしいんです。《あなたを》幸せにしたいんだ。あなたの人生がほんのちょっと楽しくなったり心強くなったりする相棒みたいな石をお届けできたらいいなと思っている。わたしにできることはほんとうに少ないんだけれど。でもそう思って、信じて、目指して、作っています。


だから着用写真は出しません。他の誰にも邪魔されず、あなたとジュエリーで、ふたりだけで出会って、そして気が合うか合わないか、これから一緒に生きるかどうかを決めて欲しい。他の何にも邪魔されたりしないでほしい。それが、アルビジアが着用写真を出さない(説明すると長いからちょっと割愛してきたほんとうの)理由です。


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